◆SH2902◆弁護士の就職と転職Q&A Q98「リーガルテック企業への参画は弁護士キャリアの亜流か? 本流か?」 西田 章(2019/11/25)

弁護士の就職と転職Q&A

Q98「リーガルテック企業への参画は弁護士キャリアの亜流か? 本流か?」

西田法律事務所・西田法務研究所代表

弁護士 西 田   章

 

 「リーガルテック」なんて、一過性の流行り言葉であって、職人的法律家に求められるスキルは本質的には変わりはしない。そう信じてきた弁護士にとって、今年の夏から、大手法律事務所を巻き込んだリーガルテック関連で公表されたニュースには、そんな強がりを言っていられなくするほどの衝撃がありました。従来型業務スタイルを貫くことで逃げ切りたいと願う修習50期代までとは異なり、60期代以降の弁護士には、「あと20年以上プラクティスを続けるためには、さすがにテクノロジーの進歩を無視することはできないだろう」という問題意識を前提として、リーガルテック企業との関わりを、弁護士としてのキャリア形成において、どう位置付けるべきか迷うケースが増えてきています。

 

1 問題の所在

 リーガルテックに懐疑的な旧世代は、個人向け又は中小企業向けのサービスは進化するとしても、大企業向けの高度なサービスの実用化までは相当に時間がかかるだろうと高を括っていました。その予想は、「大企業向けサービスのメインプレイヤーは大手法律事務所だが、大手は、マンパワーを駆使した人海戦術でタイムチャージのメーターを回すことで稼ぐビジネスモデルだから、自分で自分の首を絞めるようなことはしないだろう。」と理由付けられるものと信じていました。

 ところが、その予想に反して、今年の夏以降、大手法律事務所によるリーガルテックに関する取組みが次々に報道されています。8月29日には、アンダーソン・毛利・友常法律事務所が、株式会社みらい翻訳の法務専用の機械翻訳エンジンの開発に協力をした、という報道がなされました。そして、森・濱田松本法律事務所からは、9月25日に、東京大学大学院工学系研究科技術経営戦略学専攻松尾豊教授の研究グループ(松尾研究室)及び松尾研究室のAIスタートアップである株式会社イライザと、法律業務における情報技術(IT)や人工知能(AI)の活用に関する共同実証研究に着手したことの発表がなされ、更に、同事務所からは、10月14日に、株式会社Legalscapeとの間で、法律情報検索・閲覧(リーガルリサーチ)システムの実用化に向けた協業を開始したとの発表がなされました。

 ここまでは、「大手事務所が協力しているといっても、実務に導入されるのはまだ先のことだろう。」と冷ややかな目を向けていた旧世代に止めを刺したのは、10月21日の長島・大野・常松法律事務所によるプレスリリースでした。株式会社PKSHA Technologyとの間で、同社の関連会社であるリーガルテックベンチャーのMNTSQ株式会社との協業の発表の中には、「MNTSQのプロダクトはNO&Tが実施する法務デュー・デリジェンス業務において実際に活用されており、現在、契約書の内容を機械学習機能で解析し、基本的な情報の整理や危険な条項の検出を自動で行うことが可能となっています。」という事実が開示されました。すでに新技術が実用化の段階に入っていることが開示されたことに続き、「これにより、法律事務所のサービスにおける作業アウトプットの精緻化や業務の効率化に寄与しており、弁護士や事務所スタッフの作業時間の削減にも成功しております。」と謳われたことにも、大きな衝撃が走りました。

 

2 対応指針

 起業は、損得勘定の末に導き出されたキャリア選択というよりも、「この時代に生まれた自分の使命感」を感じて、熱に浮かされて行うようなところがあります。創業間もないスタートアップ企業への参画にもそれに準ずるところがあるため、ここには、他者がキャリア・アドバイスできることはあまりありません(事業が立ち上がらない、又は、会社に合わないと悟った時点で、遅滞なく再転職を相談しやすい環境を整えてあげることぐらいです)。

 最近では、「従来型業務スタイルを続けること」のリスクを高く見積ることで、損得勘定から、リーガルテック企業への参画を選択肢に入れる若手も現れるようになってきました。損得勘定を起点とする場合には、「この会社は、リーガルテックの本流になりうるプロダクトを開発できるのか?」という視点で、エンジニアの技術力や法律情報のリソースを確保できているかを確認することが進路選択のポイントになっています。

 リーガルテックは、現状では、企業向けサービスで上場を目指すほどの市場規模が見えているわけではありません(巨大IT企業が本気でこの分野に参入してきたら、すべて消し飛んでしまうだろうという見方もあります)。そのため、「早期に入社して、株やストックオプションを貰っておいたら、億円単位のアップサイドを狙える。」という期待を抱く、というよりも、むしろ、「将来、弁護士又は法務部員に戻った際のアドバンテッジが得られる。」と考えられることに価値を見出すほうが現実的です(クライアントワークだけでなく、ナレッジマネジメントの観点からも)。

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(にしだ・あきら)

✉ akira@nishida.me

1972年東京生まれ。1991年東京都立西高等学校卒業・早稲田大学法学部入学、1994年司法試験合格、1995年東京大学大学院法学政治学研究科修士課程(研究者養成コース)入学、1997年同修士課程修了・司法研修所入所(第51期)。

1999年長島・大野法律事務所(現在の長島・大野・常松法律事務所)入所、2002年経済産業省(経済産業政策局産業組織課 課長補佐)へ出向、2004年日本銀行(金融市場局・決済機構局 法務主幹)へ出向。

2006年長島・大野・常松法律事務所を退所し、西田法律事務所を設立、2007年有料職業紹介事業の許可を受け、西田法務研究所を設立。現在西田法律事務所・西田法務研究所代表。

著書:『弁護士の就職と転職』(商事法務、2007)




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