◆SH2859◆国際シンポジウム:テクノロジーの進化とリーガルイノベーション「第3部 検討すべき課題、求められる人材育成とは?③・完」(2019/10/30)
国際シンポジウム:テクノロジーの進化とリーガルイノベーション
第3部 検討すべき課題、求められる人材育成とは?③・完
パネリスト ケンブリッジ大学法学部教授 Simon Deakin ケンブリッジ大学法学部教授 Felix Steffek 学習院大学法学部教授 小塚荘一郎 一橋大学大学院経営管理研究科准教授 野間幹晴 産業技術総合研究所人間拡張研究センター ファシリテーター 一橋大学大学院法学研究科教授 角田美穂子 電気通信大学大学院情報理工学研究科准教授 工藤俊亮 株式会社レア共同代表 大本 綾 |
第3部 検討すべき課題、求められる人材育成とは?③・完
質疑応答
角田:
時間が押しておりまして、残された時間は15分くらいですが、ここで会場からお出しいただいた質問に登壇者の先生方にお答えいただくというコーナーに移りたいと思います。
まず、感想の紹介をさせていただきますが、「スマートなプロレスでした!」というものでありますとか、知的プロレスを大いに楽しんでいただいたというコメントもお寄せいただいております。
次に、質問というか、会場から問題提起をいただいておりますので、これはどなたかにお答えいただきたいと思うのですが、「イノベーションを起こすのは、合理的な意思決定ではなくて、非合理的な情熱ではないか」という意見がきております。あるいは、他の方からの感想、意見なのですが、「テクノロジー初期の段階では、サンドボックスでやるのが結局は最も手っ取り早いのではないか」、「規制の度合いを決めるのは容易ではなさそうなので、やはりサンドボックス方式しかないのではないか」という意見がきておりました。このような会場からの意見に対して、いかがでしょうか。
まず、イノベーションを起こすのは、非合理的なパッションではないかというコメントに対して、Deakin先生、いかがでしょうか。
● イノベーションを起こすのは非合理的なパッションか
Deakin:
ありがとうございます。イノベーションはもちろん私たちの知っているところの向こう側に行くわけですから、将来に向けてのリスクを取ることも意味します。社会はイノベーションを支援していく必要があると思います。それは法システムが全体として行うのであり、基本的には経済活動の仕組みのなかでイノベーターに成功の果実を保障しているのだと思います。私たちは、イノベーションを起こした企業にいわゆる「スーパー競争レント」、イノベーションで得た利潤を得ることを許容し、大いに成功した企業が巨大化することも認めています―――私たちが規制が必要であると考える地点までは。しかし、この考え方では、リスクをとるインセンティヴを最大化すべきだということにはならないと思います。
たしかに、イノベーションというのは、ある意味、私たちの知っていることを越えた向こう側にあるという点には同意しますが、それが非合理的かどうかということだけではなく、既存の知識にとらわれない、そしてまた、自分たちの知っていることにとらわれないということを意味するのだと思います。そして、この点は、機械学習もしくはAIについて考えるときに非常に重要なポイントであると思います。AIに関する多くの見解が、機械学習が傾向として、少し後ろ向きなのではないかと指摘しています。いわゆる既存データに依拠しているという点においてです。そして個人的には、この深層学習の学習を暗黙の前提とするAI学習というのは、果たして、どの程度、社会に適応可能なものだろうかとの疑問をもっております。