◆SH2846◆国際シンポジウム:テクノロジーの進化とリーガルイノベーション「第2部 テクノロジーの進化に対する工学×経営学×法学のアプローチ④・完」(2019/10/25)
国際シンポジウム:テクノロジーの進化とリーガルイノベーション
第2部 テクノロジーの進化に対する工学×経営学×法学のアプローチ④・完
パネリスト ケンブリッジ大学法学部教授 Simon Deakin ケンブリッジ大学法学部教授 Felix Steffek 学習院大学法学部教授 小塚荘一郎 産業技術総合研究所人間拡張研究センター生活機能ロボティックス研究チーム主任研究員 梶谷 勇 一橋大学大学院経営管理研究科准教授 野間幹晴 ファシリテーター 一橋大学大学院法学研究科教授 角田美穂子 電気通信大学大学院情報理工学研究科准教授 工藤俊亮 株式会社レア共同代表 大本 綾 |
第2部 テクノロジーの進化に対する工学×経営学×法学のアプローチ④・完
● 中国フィンテックの光と影
Deakin:
中国のフィンテックは急速に伸びてきています。そして、ある意味、最も色々な動きがあって、そしてまた世界のフィンテックの業界の中でも急速に伸びている業界であることは確かです。例えばプラットフォームレンディング、これは中国では急速に伸びていて、特に、2013年、2014年以降、その伸びは顕著です。2000以上のプラットフォームがクラウドファンディングをしていますし、一部は銀行のような役割までも果たしています。預金を取って、それを資金に貸し出しをしたり、また他のところはP2Pレンディングをしているところもあります。そしてまた、大きな中国のテックジャイアント、アリババやテンセントといったところがありますが、そういったところが経済の規模を活用しています。
中国市場というのは、アメリカの巨大テック企業がなかなか中国でビジネスができるという環境ではありません。ですので、そのような規制環境のもとで、中国の振興のテック企業が中国モデルという形態をとりながら急速に伸びたということです。そして、中国のフィンテックは、長きにわたって、国家レベル、そして省レベルでも、法規制はほとんどなかったわけです。EUの一般データ保護原則(GDPR)や電気通信プライバシー法(Electronic Communications Privacy Act)のようなものは、中国には存在していません。ですので、中国でデータ市場があるというのは何故かと言いますと、その規制のコントロールが弱かったという過去があったからです。
しかしながら、最近の展開として、非常に急速な伸びが起こった一方、フィンテックセクターで大きなスキャンダルが起きています。Ezubaoのようなプラットフォームが失速し、何千という投資家、またはその貸し手が資金を失ったのです。その直接的な原因は、プラットフォーマーが破綻したことです。そしてP2Pレンディングですが、そのやり方が詐欺まがいであったこともありました。そして2015年に規制が導入されてから2018年までの間にプラットフォーマーの数は急激に落ち込んでいます。これは、破綻したり、または取引をやめたりとしたためです。新しい規制を遵守することができなかったからです。トレーディングが詐欺まがいであったり、または銀行のような貸し出しをしていたのですが、本来であれば預金が取れないにも関わらずやっていたということで、そういった動きが不活発になりました。
このように、中国は急速に伸びたのですが、それは何故かというと、規制の空白地帯だったからだということがあります。そしてその後、政府としては、その状態であればフィンテックセクターであまりにも急速に伸びている中でリスクが高いと考えたわけです。そして、フィンテックのP2Pレンディングへの信頼が急落しました。ですから、今やこの業界というのは、過去とはずいぶん様相が変わったと思います。過去に比べてより安全になりましたし、そして銀行やまたは保険からのサポートというものを得るようになりました。
ただ、中国の概要を見ていきますと、非常に強い政府のサポートがあります。電子決済のところ、そしてまたデータ収集のところもです。それはそのコマーシャルクレジットだけではなくてソーシャルクレジットでもそうです。個人の情報を収集し、それは銀行ローンを出すためだけではなく、市民としての社会的な保証も提供するためにということでデータの収集が行われるようになっています。
しかし、これは私たちからみると非常に疑問を呈すべきものです。というのも、今現在、中国のコンテクストの中での監視というのは、これは国と企業の間での協力しての監視になっています。今現在、中国では、民間の大きなところと政府がそのサーベイランス、監督をしているわけです。このモデルの特徴はやはり認識しておかなければいけないと思います。そして、よりよく理解しなくてはなりません。というのも、おそらくその権利といったところで大きな影響が出るからです。人権に対して大きなストレスがかかっているという話がありましたが、政府がデータの収集に直接関わっているケースも多いです。それが中国のケースということでご紹介しておきたいと思います。
私もこの研究を長きにわたってやっています。私としては中国のコンテクストでどれだけ進捗したのかということにも驚いておりますし、そしてまたそれと同時にリスクも非常に大きいということに驚いております。
角田:
そういたしますと、日本企業にとって中国のフィンテック企業が行なっていることというのは、モデルにはならないというのがDeakin先生のアドバイスのようなのですが、では、我々はどのようにしていったらいいのでしょうかということで、悩ましいところだと思います。
中国はモデルにならないとして、ヨーロッパの方で何か示唆に富むようなアドバイスをいただけないでしょうかということで、先ほど社内での問題解決も法律家が担っていて、社内におられる法曹資格を持っている方というのが非常に少ないというお話をいただきましたが、そういう社内で色々な裁判の予測にテクノロジーを導入していくという分野でご活躍のSteffek先生、何かアドバイスがありましたらお話しいただけるとありがたいのですが、いかがでしょうか。