◇SH2864◇民事司法改革シンポジウム 民事司法改革の新たな潮流 ~実務をどう変えるべきか~①(2019/11/01)

民事司法改革シンポジウム
民事司法改革の新たな潮流~実務をどう変えるべきか~①

◇開催日 2019年3月23日(土)午後1時~午後4時

◇会 場 弁護士会館2階講堂クレオ

 

司会・成瀬 それでは、定刻になりました。皆様、本日は大変お忙しい中、日本弁護士連合会主催、東京三弁護士会、関東弁護士会連合会、民事司法を利用しやすくする懇談会に共催を賜りました民事司法改革シンポジウムに御来場いただき、誠にありがとうございます。
 私、本日の司会を務めます第二東京弁護士会所属の成瀬圭珠子と申します。どうぞよろしくお願いいたします。
 本日のシンポジウムの進行につきまして御案内申し上げます。まず、第1部といたしまして、早稲田大学大学院法務研究科教授の菅原郁夫様に「我が国の民事司法の実状」と題して御講演いただき、続きまして特許庁長官の宗像直子様に「技術を守れる知財訴訟を目指して」と題して御講演いただきます。その後、休憩を挟みまして、第2部といたしまして、パネルディスカッションを開催いたします。どうぞ最後まで御聴講ください。
 それでは、日本弁護士会連合会会長の菊地裕太郎より開会の御挨拶を申し上げます。

菊地会長 会長の菊地裕太郎でございます。
 開会に先立ちまして、主催者より一言御挨拶申し上げます。本日は、花冷えのする中お集まりいただきまして、誠にありがとうございます。当シンポジウム、ある意味ではこれからの民事司法の大きなステップになる記念すべき日になるのではないかと期待しております。
 利用しやすく、使い勝手のいい、そして公正な民事司法の実現を目指すんだと、これが2001年の司改審の司法改革制度の大きなコンセプトであります。この間、裁判迅速化法等工夫はございましたが、日本経済の景気と同じように、改革の実感が得られなかったのが偽らざる本音だろうと思っております。
 日弁連では、2011年に民事司法改革実現本部を立ち上げ、民事司法グランドデザインを策定いたしました。同時に市民の皆さんに軸足を、そして共感を得るために、民事司法を利用しやすくする懇談会(民改懇)も立ち上げて運動をしてまいりました。
 そして約20年、いよいよチャンスが巡ってきました。言うまでもなく、昨年の政府の骨太方針において、民事司法改革を政府を挙げて推進するということが記されました。これを受けて、現在内閣官房と法務省の下に推進する組織体をつくるという構想がほぼ固まりつつあります。ここを民事司法改革の足場にして、大きく前進させたいと思っております。
 どうしてこのような流れができたのかというと、やはりグローバル化とデジタル化でございます。グローバル化に伴う国際展開でございます。自民党の国際司法外交にも掲げられ、このままでは日本の国際競争力、特に司法の中の国際競争力はなくなるのではないか。司法がワークしなくなるのではないかという危機感が共有できたことであります。
 御案内のとおり来年3月には、東京に国際仲裁調停の審問施設をつくるという予定で今進行しております。ここを拠点に国際展開を図りたい。世界に遅れている我が国の国際司法、これについて大きな展開を図りたいと思っております。
 その先駆的なところが、やはり知財でございます。本日、宗像長官が御登壇されるということでございます。この知財をめぐっては、いち早く損害賠償の額の確定、拡張も含めた法改正が試みられておりますし、先般の新聞報道では、東京の裁判所で、外国語で知財の裁判を行うんだというようなことも報道されております。まさに日本の裁判の使いにくさ、これが国際的な訴訟につながっていないということでございますので、ある意味では、大きな進展がみられるのではないかと期待しております。
 グローバル化といえばインバウンド、ことに外国人労働者の共生、多様な文化の社会をつくるんだということについては、司法アクセスをどうするのかが大きなテーマでございます。これも広い意味で民事司法という中で、予算を伴う本格的な仕組みを考えていきたいと考えております。
 デジタル化については、御承知のように裁判のIT化でございます。かなりこの部分については、日本の裁判が遅れていると言われておりますし、今後のIT技術の進展に伴って、このままでは遅れてしまうということで、現在プラクティスと法整備について、法曹三者中心に鋭意検討されております。
 いずれにしましても、避けて通れない道であります。ただ、使いやすいという観点から言うと、IT弱者の司法アクセスをどう守るのかということは大きな課題だろうと思っております。判例のデータ化もできていないということになれば、AIの将来にも後れを取ってしまうということもございます。
 そういう意味では、こういう世界的な潮流の中でやはり日本の民事司法、活力を与えて大きく展開するんだということが、今般の民事司法改革の大きなエネルギーになるだろうと考えております。
 本日は、改革の大きな第一歩になるシンポジウムとなってほしいと思っております。本日御登壇いただく各方々、そしてこれを運営していただいた委員の方々に、厚く改めて御礼申し上げます。ありがとうございました。

 

● 第1部 基調報告・特別報告

司会・成瀬  続きまして、早稲田大学大学院法務研究科教授の菅原郁夫様から「我が国の民事司法の実状」についてお話しいただきます。
 それでは、菅原様、どうぞよろしくお願いいたします。

菅原・早稲田大学大学院法務研究科教授 早稲田大学の菅原です。今日はこのような機会をいただきまして大変緊張いたしておりますが、限られた時間で分量が多めなものですから、少し早い進行になろうかと思いますが、よろしくお願いいたします。
 まず、最初にお手元配布の資料について少しお話をいたします。青色の綴じ込んだ資料を御覧ください。進行のページの次に私の提出いたしました「利用者の視点から見た民事裁判制度改革の現状と今後の方向性」というものがあります。これは私の報告のレジュメで、報告の流れを示したものです。実際の報告は、さらにめくっていただいて、3/40からあるパワーポイントファイルを印刷したもの、これは会場の画面に映りますが、それに従って進めていきたいと思います。
 そして、さらに進んでいただいて、16/40からですが、「2016年民事訴訟利用者調査の結果の概要」というのがありますが、これは今日の報告の基になる民事訴訟利用者調査の最新版の概要を示したものです。この場でこれに触れることはできませんが、お持ち帰りになった後で、少し詳しく御覧いただければと思います。
 それでは、本題のほうに入らせていただきますが、本日の話は、司会のほうからの紹介で、「我が国の民事司法の現状」という大きな内容のタイトルでしたが、私の力量では、この大きいタイトルでお話しすることは難しいので、少し絞って「利用者の視点から見た民事裁判制度改革の現状と今後の方向性」ということで話をさせていただければと思いますが、その利用者の視点とは何かということをまずお話ししたいと思います。それから、最近の改革の状況を示す客観的なデータを少し示し、それに続いて、それに対する利用者の評価はどうであったのか、という点についてお話しします。そして、この評価には改善している部分と停滞している部分があるということを示し、最後にそこを分析し、今後どのように考えるべきなのかということで、話を進めてまいりたいと思います。
 まず、利用者の視点から見た司法制度改革の成果というときの、利用者の視点というのは何かと申しますと、私どもは多くの方々に協力していただいて民事訴訟の利用者調査というのを行ってきております。そのデータに示された利用者の視点をもとに、司法制度改革の成果を見てみるということです。
 この利用者調査のスタートは、司法制度改革審議会が2000年に行ったものでありまして、訴訟制度に対する利用者の評価を実証的に把握するために行ったものですが、実際に訴訟をした当事者のところに伺って、その民事訴訟の各側面に関する評価を尋ねるといったことをしました。
 この民事訴訟の利用者調査の重要性は、審議会の報告書の中でも触れられておりまして、今日最後のほうで触れるのですが、継続実施をしていくべきであるということが指摘されております。その指摘を受けまして、私どもと有志が集まって「民事訴訟制度研究会」という研究会をつくりまして、その後2006年、2011年、2016年、5年おきにこの調査を実施してきました。この民事訴訟制度研究会には、実は先ほど御挨拶をいただいた菊地会長も御参加いただいておりますし、後でパネリストとして御登壇になる三木教授も参加いただいております。
 資金や協力をいただいた方などは、資料に示したとおりですが、重要なのは2006年からは、政府の調査ではないことから対面調査が難しくなり、2006年以降は、郵送調査に切り替わったという点です。調査方法が切り替わりますと、解釈も微妙に変わってきます。先ごろ話題になっている厚生労働省の件などもありますが、ちょっと慎重にしなくてはならないところもありますので、今回は調査手法をそろえた2006年以降の調査を中心に紹介、検討を試みるということで進めさせていただければと思います。
 まずは調査の対象になった実際の民事訴訟の状況がどのようになっているのかということに関して、審理期間とか、あとは代理率、あるいは訴訟数といったところを見ていきたいと思います。
 これは、裁判の迅速化にかかる検証に関する報告書からいただいたデータで作成したものですが、2000年から比べますと2008年、09年に向けてずっと審理期間が短縮していった経過があります。しかし、残念ながらその後また少しずつ審理期間が延びてきて、現状2016年当時では、平均審理期間が8.6か月ということで、2000年あたりまで戻っているという流れがあるということをまず指摘しておきたいと思います。なお、注意していただきたいのですが、2007年あたりから過払い事件が急激に増加するものですから、この資料ではそれを母数から差し引いています。
 次に、弁護士数と弁護士代理の関係であります。ここで弁護士代理のあった事件というのは、原告・被告に両方に代理人がついた場合と一方についた場合、とにかく弁護士が関与した事件の割合です。端的に言いますと、双方本人訴訟を除いた事件の割合ですが、このオレンジの線が弁護士数の増加を示しています。弁護士数は御存じのように、ずっと上がってきております。それと比例して、やはり弁護士がつく割合も上がってきております。ここの部分が少しくぼみになっておりますが、これはグラフにも書いてありますように、過払い等の事件の急増期でありまして、母数が一気に増えたことの影響であろうと思われますから、堅調に代理率は上がってきているということになります。
 それに対して、今度は新受件数のほうを見てみます。弁護士数がこのようにずっと上がってきているのですけれども、それに比例する形で新受件数が伸びているかというと、決して伸びていません。弁護士が増えても事件が増えない、といったことがよく言われたわけでありまして、弁護士を増やした効果がないのではないかといったことが指摘されているわけでありますが、しかし、弁護士数と新受件数の変化というのは、長期的に見ればこのように比例する形ですが、短期的に見ると、必ずしも弁護士が増えていても事件が増えるわけではありません。むしろ減る時期もあります。
 これはなぜかというのは、いろいろな原因はあり得ますが、多く言われているのは経済変動の影響を受けるという点です。好景気のときは訴訟外での処理が進みます。ですから、わざわざ事件が裁判所に来なくとも解決できる。しかし、不景気になるとなかなか訴訟外での処理が難しく、訴訟事件が増えるのだという説明がされます。昨今の経済状況を考えてみますと、なかなか実感はないと言いつつも、一応好景気だと言われております。したがいまして、この間に訴訟数が増えないということは、それなりの原因が他にもあるように思われるわけです。したがって、短期的な事件数の変動に一喜一憂することなく、実際の内実をもう少し踏み込んで見てみる必要があろうかということになりますが、そういう意味で、この利用者調査に表れてきた状況を少し説明していこうかと思います。
 初めに、この訴訟を取り囲む状況が改善しているのではないかと思われる点についてお示しし、その後に評価が低下あるいは停滞している点について、お示しいたします。ここからのデータは、これまで示したグラフのようないわゆる全数データではありません。一定のサンプルを任意に抽出して行った調査でありますから、全部がそうだということではありません。しかし、ランダムにサンプリングをすることによって、ここに表れてきたデータが母集団の変化を反映していると考えていただきたいわけでありまして、そういう前提での説明ということになります。調査自体は、やり方は3回の調査全部共通です。調査の時期も規模も範囲も統一しております。したがって、今申しましたようにここで起こった変化は、母集団の変化であろうということが強く推測されるという関係になります。
 先ほど申し上げましたように、訴訟代理率が上がってきております。それがどの部分に出ているのかですが、こちらのグラフは世帯別に過去3回の調査の中で、どれだけ代理がなされていたかを示したものです。大きく変化しているのは、世帯収入300万円以下の低所得者層です。これがかつては65.4%しかなかったものが、10ポイントぐらい上がって75.0%まで上がってきていす。さらに言えば、300万円以上1,000万未満のところでも上がってきています。むしろ1,000万以上のほうは、頭打ちでむしろ上下動している感じです。下の所得層の代理率が上がってきているということです。
 それから、隣のグラフは当事者の属性別の代理率です。自然人原告、自然人被告、法人原告、法人被告と分けたとき、これまでかなり低かった自然人被告の代理率が57.1%から72.6%まで上がってきています。これらの点から、全体の流れとしては、弁護士が増えたことによって代理率の底上げが生じていると推測されるわけです。
 それから、法的情報供給に関わる点について見てみます。調査では問題が起きたときに相談した先を聞いています。相談した先で、圧倒的に多いのは弁護士です。弁護士への相談率というのは、2011年、2016年調査のみで、 2006年のデータはありません。2011年では81.3%、2016年では81.4%で、当事者は弁護士にまず相談しているわけですが、その他の部分を見てみますと、割合が低い中で伸びを示している部分があります。それが法テラスです。法テラス以外は、「その他」がありますが、これは種々雑多の合計です。他の項目は、みな相談のパーセンテージは下がっていますが、法テラスは倍増に近い形で伸びてきています。法テラスを設置した意義もこのあたりに表れているのかというところです。
 それから、インターネットの使用状況です。調査では訴訟を開始するに当たって、費用がどれぐらいかかるのか、あるいは時間としてどれぐらいかかるのか、といった点を予想できたかどうかを聞いています。そして、予想できた回答者に対して、どこからその情報を得たかということを聞いていますが、一般に弁護士さんが一番多いことがわかります。それに対し、インターネットを使ったという割合は、費用に関しても時間に関しても、全体としてみればかなり低く、低いながら伸びがあるという程度かといえます。しかし、その中で注目すべきは、事件類型を「夫婦・家庭」の問題に限って見た場合、費用の情報に関してインターネットを検索したという割合がかつては6.7%であったものが38.5%に上がっています。それから、どれぐらい時間がかかるのかという点に関しても、かつては0%であったものが32.1%まで上がっています。領域によってはかなりインターネットが情報源として使われるようになってきているという状況が示されています。
 こういった点に関し、全体的にいい結果が出ているわけですが、そういったことの表れの一つとして、弁護士に依頼する時期も随分早まっています。かつて、裁判になるかどうかわからない段階で、弁護士さんに相談に行った割合は、2006年段階では52.6%だったものが、2016年では60.2%にまで上がっています。それから、裁判の原因になる事柄が発生してから裁判になるまでの期間を聞いていますが、これも2006年段階では4.1年だったものが、2016年では3.1年と、平均で1年縮まってきています。問題が生じてから早期に訴訟に至っているという変化が生じてきています。これらは訴訟の入口の部分に関わる改善点ではないかと思われるのですが、反面、訴訟が終わっての制度評価に関しては、残念ながらそれほど上がっていないということがわかります。
 制度評価に関しては、今回の分析では、三つの質問を捉えました。一つは「日本の民事裁判制度は、紛争解決の役目を十分に果たしているか」。二つ目は、「日本の裁判制度は、国民にとって利用しやすい制度かどうか」。そして三つ目が、「日本の裁判制度は国民にとって満足のいくものかどうか」、という質問です。この三つの質問をずっと見ていきたいと思います。
 調査では、これらの質問に関し、「全くそう思わない」から、「強くそう思う」までの5段階で評価してもらっています。その平均値を示したものが、このグラフですが、いずれの質問に関しても、2006年から2016年の3回の調査で、数字上は若干の変動がありますが、統計上の検定をかけるとこれは誤差にすぎないという結果になり、これら制度評価部分の評価は横ばいであるということになります。
 そして、さらに非常に重要な点として、将来同じような問題状況に至った場合、「再び裁判で問題を解決しようと思うか」、法律問題で困っている知人がいたら、「裁判で問題が解決するように勧めるのか」という質問があります。前者のほうを再利用意思、後者のほうを推奨意思と我々は呼んできましたが、これを見ると残念ながら低下してきています。この低下は誤差ではなく、統計上有意なものでありまして、確実に下がってきているということが表れてきたわけです。
 この状況をどのように考えるべきかということで、少し踏み込んだ分析をしてみました。制度評価に関し、今日お手元にお配りした調査の概要がありますが、それを御覧いただくとわかるのですが、その概要の中でよく出てくるのは、法人当事者の評価の高さです。したがって、法人に限ってみれば、いい評価が出ているのではないかということで考えたのですが、しかし法人といってもこれは多種多様であります。大きいものもあれば小さいものもあります。そこで試みに、資料に書いてありますように、小規模法人、中規模法人、大規模法人という形で回答者をグループ分けして、それに自然人を加え四つのグループ分けで、評価の状況をもう一度見てみました。
 ちなみに法人というのは、具体的に形があるわけではございませんので、一体誰が答えているのかということが問題になるのですが、質問は資料に示しているような形でしているということになります(「貴法人・団体において、該当する裁判の詳細をよく理解している方(法務・総務御担当者など)に御回答いただきたく存じます。該当する方へ調査票をお渡しいただければ幸いです。」等)。
 そうしましたところ、この3回の調査、全部をまとめて比較した場合、やはり大規模企業の評価がかなり高くなります。比べて、小規模法人あるいは自然人の評価が下がるという一般的な傾向が出てきました。これは、統計的に有意差があります。
 さらに、再利用意思に関しても、自然人と大規模企業及び中規模企業の間では有意な差があって、大規模企業、中規模企業のほうが、再利用意思が高くなっています。これに対し、推奨意思の方は、四つのグループでそれほど変わらないという結果が出ました。
 さらにこれを各年の調査ごとに分けて変化を見たところ、大きい違いが出てきました。大規模企業の評価は、すべて有意に上昇しています。紛争解決の役目に関しては、最新の調査では4.09まで上がっています。それから、利用しやすさも中間点である3ポイントを超えています。さらにもう一つ、満足度に関しても3.45と、他に比べてかなり高くなっています。これらグラフは、調査の回数を経るにしたがって評価が有意に上がってきているということを意味しています。
 それに比べて、自然人の評価はどうかというと、これは逆に回を追うごとに下がってきています。小規模企業と中規模企業の問題もあるのですが、今回はポイントを大規模企業と自然人に限って見ていきます。そうしますと、大規模企業は評価が上がってきているのに対し、自然人の評価は緩やかに下がってきています。ただ、この下がってきている部分に関しては、誤差の可能性は否定できない。統計的には有意な差になっていないという関係にあります。
 再利用意思、推奨意思に関しては、どうかといえば、自然人の場合、推奨意思は有意に下がっています。その他のグループも皆下がっているのですが、大規模企業だけ上がり気味だという違いがあります。この大規模企業の再利用意思は、グラフに赤くマルをしたところですが、Pが0.145で、有意水準にまで達していない有意傾向程度なのですが、ただ、これは上がっているわけです。しかし、他はどうも下がる傾向のほうがむしろ目につくということになります。
 この現状をどのように考えるべきなのかということですが、これまでの改革・改善の効果が十分に見て取れる部分がある反面、効果の及んでいない場面もあるのではないかといったことがいえようかと思います。具体的に言いますと、大規模企業に関しては、その評価に改善改革の効果が顕著に現れていたように思います。しかし、同じ改革・改善の努力が、自然人には肯定的な効果をもたらしていなかった、むしろ評価が下がり気味だったということが示されたことになります。
 冒頭でお話したとおり、一方で、自然人を中心に弁護士代理率が改善されたり、相談が早期化されたり、提訴の早期化とアクセス障壁の解消傾向も見て取れたわけです。こちらのほうでは、訴訟を行う環境は、以前よりも整備されつつあるのではないかということを推測させるところがあったわけです。そのことはいいことなのですが、しかし、仮に自然人の利用者が増えても、今のままその自然人利用者の制度に対する評価が上がらなければ、最終的には制度が閉塞状態に陥ってしまうのではないかということが危惧されるところです。一度は使ってみたが、使ってみたらもう使わないし、人にも奨めないということですと、使う人が増えれば増えるほど、制度の利用を控える人も増えてしまう可能性が示唆されているともいえます。これは放置できない重大な問題ですが、なぜそういうことが起きているのかという点に関しては、正直まだきちんとした分析ができておりません。
 例えば、今のところお示しできるものとして、次のようなものがあります。このグラフは制度の満足度に関して、ここに示した質問項目がどれだけ相関しているのかを重回帰分析という方法によって検証したものですが、そうしますと自然人と大企業で判断構造が違う部分がある可能性が示されています。
 特に注目していただきたいのは、 ajR2の数値です。これは調整された決定係数と呼ばれるものですが、この満足度の変化をこれらの要因で説明できている程度を示すものです。1から0の間で変化するのですが、数値が高ければ、例えば1であれば、ここに挙げた要素でこの満足度の変化をすべて説明できるというものです。自然人の場合には、3.48でありますから、体験した訴訟のへの評価が制度一般への満足度の3分の1ぐらいのことは説明しているということになります。しかし、大企業に関しては同じ数値が0.83で、調査対象の事件に対する評価が制度一般の評価にほとんど影響を与えていないということが示されています。
 そして、一緒に見ていただきたいのですが、調査対象者の訴訟経験の割合、すなわち、我々の聞いた訴訟の他に訴訟を経験しているものの割合は、自然人の場合は26.0%しかありませんでした。それに対して大規模企業の場合には同じ割合が94.7%、しかも平均回数が100回を超えています。実際にはこういった違いがあるということになるわけなのですが、そうすると先ほどの評価が上がっていった大規模企業の評価というのは、一つの事件の評価ではなく、訴訟を多く経験する中でその変化を感じ取れているのではないのかといった推測も成り立ちます。それに対して自然人は1回きりの経験なわけです。一体何と比べて評価したらいいという問題が出てくることになります。と同時に、しかし、その1回しかない経験が、制度の評価にはかなり重い影響を及ぼすという関係になっているのではないかといったことも、推測できるわけです。
 こういったことを前提に今後の方向を考えていかなくてはならないわけなのですが、今後の方向としては、まずこれまでの努力を継続する必要性があるといえます。改革・改善効果が現れていた大規模企業でも、利用しやすさや満足度はまだ十分なものとはいえないところがあります。ただ、これはこれまでの変化を見る限り、これまでの努力を続けていけば上がっていく可能性があるわけです。
 しかし、それに加え、今後はこれまでの努力だけではどうも足りないのではないかということも意識する必要もあるように思います。これまでの改革・改善は、制度を知るもの、制度を使うリソースやリテラシーがあるものには実感できていたのですが、初めてのものには実感できない改革だったのではないか。なぜそうかと言いますと、先ほど言ったような経験数の違い、判断構図の違いがあるからです。その意味で、これまでの改善・改革の意義と限界を再認識する必要があるように思います。
 なお、しばしば大規模企業は、有利な結果を得ているからこういうことになるのではないかということが指摘されるのですが、結果をコントロールした場合、すなわち、自然人も有利な結果を得たものだけに限って分析しても同じような差が出るわけで、そこに書いている結果の有利さ、事件類型等は、この差を説明する要因としては登場しないというのが、今のところで出てきている結論であります。
 そうなりますと、市民の視点というのは何なのかを確認する必要があるわけです。その意味で、新たな視点での改革ということが必要なのではないかということもいえるのではないでしょうか。今ある制度の効率化だけではなくて、市民にとっての利便性とは何かといった視点から、今後はまた新たな改革を提示していかなくてはならないのではないか。法律家の視点でできることをするだけではなくて、市民がどのような裁判を求めているのかを、もっと端的に知る必要があるのではないかということになろうかと思います。
 ここまで考えてきたときに、最後に心の中に浮かび上がってきたのは、このレジュメの最後のところに少し長めに引用しておりますが、司法制度改革審が報告書の最後に述べている言葉です。その言葉を読み上げますと、「司法制度の在り方が、従来のようにいやしくも法曹三者の意思、意向のみによって決定されるようなことがあってはならず、またそうした受け止められ方がないように十二分に配慮すべきである。そのためにも法曹三者は、それぞれ外部の評価を真摯に受け止め、適切に対応していくことが求められている」とあります。その先にありますように、そのためにこの利用者調査のようなものを継続していかなくてはならないということで、我々もこの調査を継続してきたわけですが、まさに継続してきたことによって改革努力の行き届いていた部分も見えたのですが、行き届いていない部分も見えてきたということです。
 ということで、最後に結びの言葉といたしましては、今後の改革というのは、視点を変えた新な改革の次元に入っていかなくてはならないのではないかというのが、私の今持っている感想であります。以上で報告を終わらせていただきます。

司会・成瀬 ありがとうございました。皆様、菅原様に今一度盛大な拍手をお願いいたします。(拍手)

②につづく

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